「昇龍乃図」 諏訪大明神舞殿天井画制作
2015年7月25日 奉納
●天に昇る龍
2間四方の天井に向かい龍を描く姿は、龍と対峙する気迫だ。2間四方の広さは、立てかけて描いても100号を越えるものである。それをひたすら天井を仰ぎ、筆を進める様は見方を変えれば拷問である。
お題は“龍”。未だ誰も姿を見たこともない奴の体を描く彼の早い筆捌きを見ていると、“正解とは何なのか?”という素朴な疑問に先ずは襲われた。暑い太陽に照らされ、一面に広がる水田に目をやりながら考えた。当然、龍を描くことに正解などはない。古今東西これまで数え切れぬ程の龍が数多の絵画、彫刻に出現している。今までも、そして今回も依頼者の願望、制作者の思い、そして作品の置かれる場所に最も相応しい“龍”がここ、大沼の地に出現したこと、これが正解ではなく、「解答」なのだ。
一方、鱗を黙々と描き進める筆の動きを見ていると、更に“描くこととは何なのか?”と深海に嵌まるような問い掛けに襲われた。外では蝉が鳴き、雉が畑を走り廻っている。彼自身、描くことを志してこの世界に飛び込み、精進しているはずだ。但し、現在していることは、拷問の姿勢を取りながらの千枚超える鱗の描写でしかない。しかしだ。どんな創造的な作業でさえ、分解して部分だけを見てしまえばそれは単純、単調な動作の繰り返しでしかない。そう、彼の作業は、筆をひたすら走らせることではあるが、一枚一枚の鱗を描くことを通して作品に命を込めていたのだ。
弥彦の雲間から、魂が込められて龍は、確かに生を受けて立ち昇って行った。それは間違いない。
2015年7月28日
長岡造形大学 平山 育男